Skip to Content

April 2024

100年ぶりに発見された野生種の新種「クマノザクラ」

  • 満開のクマノザクラとメジロ
  • 山あいに咲くクマノザクラと熊野地方の街並み(三重県南牟婁(みなみむろ)郡御浜町) Photo: 日本クマノザクラの会
  • 優しく上品な色合いの花を咲かせるクマノザクラ
  • クマノザクラの苗木を地域で協力して育て、植樹している。
    Photo:日本クマノザクラの会
xxx

日本の本州中央部から突き出て太平洋へ至る日本最大の半島・紀伊半島。その南部の山中で、これまでヤマザクラの変異の一つと思われていたサクラが、新たなサクラの野生種であることが調査で分かった。野生の新種の発見は日本では実に100年ぶりという。その特徴や発見の経緯などを、保全活動を進めている方々に話を聞いた。

2018年に学名が発表された野生のサクラの新種は、自生している地名にあやかり「クマノザクラ」と命名された。このサクラを発見した、森林総合研究所の勝木俊雄(かつきとしお)さんにその経緯などを聴いた。「まず、地球温暖化の影響により、日本の冬の気温が上昇したことで地域によっては、日本で最も一般的なサクラの'染井吉野'(そめいよしの)が咲かなくなっているという現状がありました。もともと沖縄県では'染井吉野'が生育できないのですが、鹿児島県の南部でも同じ状況になりそうな深刻な状況です。沖縄には、カンヒザクラ(「沖縄にひと足早く春を告げる琉球カンヒザクラ」参照)という野生種のサクラが有名ですが、'染井吉野'のような淡くピンクがかった白い花びらがヒラヒラと舞い散るようなサクラではありません。将来を考えると、本州を含めて'染井吉野'が生育できない地域が広がることが予想されるので、気温が高くても生育可能なサクラの種類を探すため、南の地で生育しているサクラの研究が始まりました」

山あいに咲くクマノザクラと熊野地方の街並み(三重県南牟婁(みなみむろ)郡御浜町) Photo: 日本クマノザクラの会

「'染井吉野'に代わるサクラを準備することが大きな研究テーマということで、南の地域のサクラを調べる中で、出会ったのがこのクマノザクラだったのです」。クマノザクラは、温暖な紀伊半島南部の三重県、奈良県、和歌山の一部に分布しており、花は淡紅色、'染井吉野'よりもやや早い時期に開花し、鑑賞に適した樹木であることが判明した。特にクマノザクラの自生地では、'染井吉野'の衰弱が進んでいることもあり、今後、クマノザクラをその代わりとして観光の目的にすえる取組も始まっている。「地域の関係者や、樹木医などを中心に、クマノザクラの苗木生産や保全、利活用について研究を進めています」と勝木さんは語る。

優しく上品な色合いの花を咲かせるクマノザクラ

また、勝木さんが中心となって設立された日本クマノザクラの会でともに活動する副会長の田尾友児(たお ゆうじ)さんはこう話す。「自生地が三県にまたがる広い地域ですので、各所連携しながらクマノザクラの保全と、観光への利用を期待しています。早い地域では2月から開花し、可憐な姿を見せています。地域の皆さんに向けてクマノザクラの知識を深めるためのセミナーを行い、保全活動にも参加してもらいながら、クマノザクラの自生地を大事にしていきたいと思います」

クマノザクラの苗木を地域で協力して育て、植樹している。 Photo:日本クマノザクラの会

このクマノザクラの研究や普及が進み、紀伊半島では、吉野のヤマザクラと並び、熊野のクマノザクラが地域を代表するサクラとなるかもしれない。

淡紅色が美しい満開のクマノザクラの大木(三重県熊野市紀和(きわ)町)